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金毘羅船船、追風(おいて)に帆かけて、シュラシュシュシュ♪
軽やかな口調で、若い女性、井上通(いのうえつう)は讃岐に伝わる民謡、金毘羅船々を口ずさむ。
淡い空のもと、瀬戸内海の潮の流れに乗って船はゆく。
対岸に吉備を臨み、多島景観も美しい瀬戸の海は一見穏やかだが潮の流れは早く、操船は難しいという。
しかし東瀬戸の塩飽(しわく)の水夫たちは巧みに船を操り。船は瀬戸の海を滑るように波を蹴って進む。
「まあ、すごいわねえ」
通は船の縁につかまり、風を帆とともに受けながら塩飽の水夫たちの熟練の技術に感心する。
海にぽっかり浮かぶようにして城が見える。親藩の高松藩松平氏の居城、高松城だ。海際に建てられ、堀に海水を引いた水城であり。別名を玉藻城(たまもじょう)という。
「讃州さぬきは高松さまの、城が見えます波の上」
通は流行りうたを口ずさんで、海から見える高松城の威厳を讃えた。
が、他の者たち、丸亀藩の侍女仲間たちは揺れる船に酔い。身を寄り添わせながら、うずくまっていた……。
「ああ、もう気分が悪うて。じょんならんわ(洒落にならないわ)」
と、讃岐言葉で愚痴を漏らすような言葉ももれる。
「お通さんは、よく平気ねえ」
侍女仲間のひとりは、船上で楽しそうにしている通に感心するやら不思議がるやらであった。
「そうね。そういえば私は船酔いしませんねえ。なんででしょう?」
「そんなの知りませんわ」
侍女仲間は黙りこくって、船酔いに耐えていた。
それを見て通は気まずく苦笑いするしかなかった。
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