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時は天和(てんな)のころ。
これらは、丸亀藩主・京極高豊の母・養性院の一行であった。
養性院は江戸に向かうことになり、それに仕える通ら侍女たちもそれに随伴して、ともに江戸にゆくために丸亀藩の港から船に乗り瀬戸の海を東に進むところであった。
養性院ら高位の者らには船室があてがわれて、そこでお休みになれられていることであろう。
「しかし、今日は変に波が高いな」
塩飽の水夫のひとりがぽつりとつぶやき。
「おい、そこの娘さん。危ないから、縁から離れなさい」
水夫の言う通り、船は揺れる。瀬戸の海は潮の流れは早いが波は高くない。しかし、今日は不思議と波が高く、船は上下に揺れる。
万が一、大波が船を大きく揺らし、その弾みで通が落ちてはいけないと。水夫は気を使い、縁から離れろと言う。
「きゃ」
不意に大波が船を持ち上げ、それから滑るように落ち。通は不意の声を出して、縁につかまる。
(これは言われた通りに離れなきゃ)
真ん中へんの仲間たちのもとへゆこうかというとき。またも船は揺れて、通の身体は持ち上げられるように宙に浮いて。縁を飛び越し……。
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