74人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
イライラと携帯灰皿で煙草を消すと、右手を開いて覆うように、アンダーリムの眼鏡をくいっと一貴はあげた。
きらりとレンズが光って一貴の表情はわからない。
だからあのとき一貴が、どんな気持ちで私と付き合う気になったのか、いまだにわからなかった。
今日こそ、一貴に本当の気持ちを聞こうと思った。
でも、一貴の顔を目の前にすると、言えなくなる。
「だから、なに?」
ちっ、舌打ちした一貴に、椅子の上で飛び上がりそうになる。
怒鳴られるのかと身構えたが、一貴は眼鏡を外すと、イライラと服の裾でレンズを拭いた。
「なんでさっきから黙ってんの?」
再び眼鏡をかけた一貴の眉間にしわが寄る。
おかげで、さらになにも言えなくなった。
じわじわと涙が滲んでくる。
俯いて黙ってしまった私に、一貴がちっとまた舌打ちした。
「……泣くな」
最初のコメントを投稿しよう!