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腕が伸びてきたかと思ったら、そっとシャツの袖口で涙を拭われた。
顔をあげると不機嫌そうに視線を逸らした一貴の顔が見えた。
「……だって一貴、ずっとイライラしてるし」
「眼鏡の汚れが取れねーの!
ほんと、イラつく」
「……はい?」
驚いて瞬きしたら涙が落ちた。
また一貴の腕が伸びてきて、袖口でゴシゴシと涙を拭く。
「……おまえに泣かれると、どうしていいのかわからなくなる」
右手を大きく広げ、覆うように眼鏡をくいっとあげた一貴の表情はわからない。
でも、眼鏡の弦のかかる耳は真っ赤になっていた。
耳の赤い一貴がイライラとポケットから煙草の箱を取り出す。
でも空だったらしく、ぐしゃりと握り潰した。
「それで話ってなんだよ」
「あー、うん。
もういいや」
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