あたたかい罪

1/5
前へ
/5ページ
次へ

あたたかい罪

不意に鳴り響いたインターホンの音色で、安藤貴和子は自身の女優人生が今日で終わるのだと悟った。 テレビには二十年前の同時期にデビューし、もう何度ドラマや映画で共演した高城正樹の自宅が映っている。 直後、場面は高城が警察に連行されるシーンへと切り替わった。報道陣が浴びせるフラッシュで、高城の痩せ細った青白い顔が闇に浮かびあがる。昨晩のことだった。 「警察によりますと、高城容疑者は3年前から使用していたと容疑を認めています。また容疑に関わる交友関係も明らかになっており、警察は今日にも…」 早口にまくし立てるアナウンサーの口紅がひどく赤い。 それを鬱陶しく思い、貴和子は視線を画面から手元に落とした。無意識にコタツカバーを握りしめていたらしい。そっと手を解き、シワを伸ばすように優しく撫でた。 コタツカバーは貴和子が仕立てたもので、一年前に死んだ母の羽織を解き、既製品のカバーに市松模様に縫い付けていた。濃淡異なる赤花が咲き乱れる様はどこか攻撃的で、貴和子は仕事から帰るといつもその鮮烈な赤色に責められているように感じた。 二十五年前、芸能の道へ進むことを猛反対した母は、貴和子が家を出る最後の最後まで責め続けた。     
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加