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「俺だって泣かせてるところなんて見られたくない。中に入るか」ひかるはこたつ布団をまくりあげてわたしに入るように指示する。
図書館のほりごたつは畳一枚分くらいの大きさがあった。女の子二人であれば中に入れば見つからずに済む。
わたしはひかるが開けてくれた穴から中に入ってひかるもあとについてくる。やがて女の子の足が差し込まれる。わたしたちはそれを避けて並んで座った。
距離が近い。手と手があたる。ひかるのほうを見ると女の子の細いきれいな足を眺めていた。わたしは彼の頭を叩いた。
やがてくぐもった女の子の声が聞こえてくる。
「え、でもこころちゃんは今頃別れ話にいったわけ?」聞き覚えのある声だった。
「そうそう。で、明日わたしは傷心のひかるくんに近づいていくわけ。だから略奪とかじゃないよ」麻里の声だった。
「あんたも鬼畜だね」
わたしはひかるの顔を見た。ひかるは無表情だった。彼はスマートフォンを取り出して録音のボタンを押した。ぴろん、と音が鳴る。
「なんの音?」麻里がいう。
にゃあ、とひかるがいった。わたしは笑いそうになって口を押えた。
「なんだ猫かあ。びっくりした」
学校の図書館に猫がいたら驚きだ。
「でもこころってちょろいよね。わたしが見たっていうだけであんなに泣きそうになっちゃって」
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