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やはり芸能人には、芸能人がお似合いなのだ。
わかっていたのに、なぜ傷ついているのだろう。
「曜子」
彼は、私の日常じゃない。
近くて、遠い男だ。
俯いて、握りしめた手に、そっと大きな手が重なった。
「?!」
思わずびくりと手を引っ込めようとすると、意外なほど強い力で押さえられた。
「篤志……?」
「お前は、俺を見てないよ」
そう言う彼の目は、まっすぐに私を見据えている。
見たことのない表情だな、とぼんやり考えた。
ドラマに出ているときとも、CMやグラビアのときとも違う。
不安げで、でも真摯だ。
そうか、これが――あっちゃんだ。
やっと、出会えた。
いや、ずっと彼はそこにいた。
私が見ようとしなかっただけで。
あっちゃんの長い睫毛が伏せられ、気づくと、両腿の上に彼が覆いかぶさって私の腰を抱きかかえていた。
「……ね、今夜だけ、俺を甘やかして」
ぎゅっと、彼の腕に力がこもる。
断るという選択肢が、あるはずもない。
温かさが、全身へ広がる。
私は、ためらいがちに彼の頭に触れた。
ロミオよりもすべすべしている、綺麗なくせっ毛。
――甘やかすのは今夜だけでいいの?
そう尋ねたら、篤志はどう答えるだろう。
こたつの毛布の中からのっそりとロミオが出てきて、私の膝を独占している篤志に猫パンチをした。
了
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