18人が本棚に入れています
本棚に追加
またあるときは、
「女は素振りで解ってもらいたいときがあるのよ。それを気づかないフリをしてたんじゃない?もっと悪く言えば、あなたにはその配慮が欠けているわ。」
とも言われた。今、親方が指摘している点はこのあたりの意見と合致するのであろう。進也にも心当たりがあるので言い返せない。
「やっぱりな、無理して嫌な顔されるんが怖い。自分自身が小心者であることは認める。せやけど、ちゃんとした返事もらおうと思ったら、ちゃんと準備しなアカンやろ?ヒデちゃんみたいに誰でもええのとはちゃうねん。」
「そらそや。シンちゃんのはいっつも真剣やからな。ワシが言うてんのはな、慎重になり過ぎんようになってことやで。そらヒデちゃんみたいにチャラチャラしとったら、女の子も嫌がるやろしな。まあ、ガンバリ。」
親方も進也の性格は理解していた。最近のどことなく淋しげな背中が心配だった。もし本当に恋しているのなら、是非とも成就して欲しいと心から願っていた。
「それにしても、なんで彼女を送ってからウチに来たんや?」
なぜここに来たのだろう。それは進也自身もわからなかった。何かが足りない自分を、何が足りないのかを発見したかった。ここへ来れば見つかるとまでは思っていなかったが、親方との会話の中で何かを掴みたかった。
「親方は年上の女性と年下の女の子とやったら、どっちと付き合いたい?」
唐突に突拍子もないことを投げかけてみた。
「そうやなあ、遊ぶんやったら若い方がエエかもしれんけど、付き合うんやったらちょっとぐらい年上でもエエかな。長いこと一緒におるには若い子は話題がもたんやろ。ワシらシンちゃんみたいに物知りやないからな。」
「別れた奥さんは元同級生やった。今日会って来た子は年下やねんけど、年下の女の子と付き合ったことないから色々と難しいなあと思てる。」
「せやけどなシンちゃん、ワシが思うに女ちゅうのは年上やろうが年下やろうが基本的には一緒とちゃうかな。何がって、女の方から積極的にって無いやろ。」
「今の時代は違うで、女の子の方から告白することってザラにあるみたいやで。」
「ほう、時代も変われば変わるもんやなあ。」
進也は親方も妙なところに感心するものだなと思った。とはいえ、ミホにそんな積極性があるとも思ってはいなかった。
最初のコメントを投稿しよう!