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しかし親方の言うとおり、今までの自分は慎重になり過ぎていたのだろうか。ミホとのデートも三回目でやっとキスができた程度である。いやいや、自分たちはまだ付き合っていないのだからさにあらず。進也もミホもまだ互いの気持ちの確認をしていないのだからさもあらん。
いっそのこと次のデートで告白してしまうか。進也の気持ちの中では少しずつその方向へと動き始めていた。
ビールを二杯とつまみを平らげると、進也はホルモン屋を後にして自宅へと戻った。
親方は進也の去り際にエールを送って。
「シンちゃん、慎重にかつ大胆にな。」
K市の駅まで迎えに行くとして、そこからマリンシティ和歌山までは高速道路を使って約二時間のドライブ。九時に出発すれば充分に市場の中を楽しめる。
クルマの中の音楽も用意した。ミホはいつも店の中でかかっている有線の曲を口ずさんでいたが、それらの歌はみなアメリカンポップだったので、進也にはどうすることもできない。それでも最近お気に入りの若い女の子たちがグループになって踊りながら歌う曲や進也が学生の頃に流行った少しマニアックなグループの曲などをいくつか用意していた。目的地へはゆっくり行けばよい。
進也はクルマ好きにありがちな飛ばし屋であった。日ごろの進也の性格を知っている者には、ハンドルを握ると性格が変わると言われたこともあるが、初ドライブでミホを怖がらせてはいけない。そう思っていた。
途中の休憩場所も事前にチェックしておいた。これで準備はほぼ万端である。こんな準備をしているときでも進也の心は躍っていた。図らずも大人気ないワクワク感をもって臨んでいる自分を。つい先日はミホとの年齢差について、悲観的な妄想がよぎったばかりであるのに、今はこうして楽観的な気持ちでその日を待ちわびている。
そんな気持ちで約十日間、進也はポジティブな気持ちに心弾ませて過ごしたのであった。
来る土曜日は天候もよく、十一月ながら陽気な朝を迎えていた。
進也にとっては、心なしか窓の外でさえずっているスズメの鳴き声さえ、自分の背中を後押ししているかのような錯覚に陥っていた。
進也の自宅部屋からK市駅まではクルマでざっと二十分。土曜日の午前中は比較的道路も空いている。到着したのは待ち合わせ時間の十分前。駅のターミナル近くにパーキングしてミホを待つ。
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