◆ミホのラストナイト・・・

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「止まってる時間の中で動いとったらお腹減るんちゃうかな。」 「ほんなら時間が止まってても、動いてる人には止まってないんやな。」 「前に見たドラマでは、動ける人と止まる人とが同じ空間の中にいるけど、違う次元に住んでる人やっていう設定やったで。」 進也は数年前に見たテレビドラマの話をした。 「ん?どういう意味?」 「こことは違う次元の世界があるんやって。あっちの次元の人はこっちの次元にも存在できるっていう設定やったかな。時間を止めて行き来するって言うてたかな。」 「今ウチらが住んでる世界の他にあるんかな、そんな別の世界が。」 「もしかしたらあるかもな。」 そして一瞬止まる時間・・・・・・。何かが二人の側を通り抜けた・・・・・。 そんなことを気づいたか気づかずか、進也は周りで佇んでいるカップルを横目で眺めていた。予想通り何組かの恋人たちは、他人眼を気にせず唇を合わせていた。進也も背中から抱いていたリナを自分の方に向かせて、彼女の瞳を見つめた。そしてそっと唇を奪う。 「うふふ。やっぱりエッチなこと考えてる?」 「いいや。キスしたかっただけやけど。エッチなのはリナの方ちゃうの?」 「今度の土曜日、シンちゃんの部屋に行ったげる。そんときにな。」 リナは神妙な言葉を投げかける。そして今度はリナの方から進也の唇を求めていた。 「今日もありがとう。リナ、優しいシンちゃんが大好き。」 その言葉の後、二人は長い時間、体を合わせたまま、お互いの温もりを感じながら立ちすくんでいた。 こうして底冷えのする京都の夜は更けていくのであった。 底冷えのする京都の夜を過ごした後に、進也はその日も無事にリナを帰した。彼女の含みのある言葉を聞いた後だから。 流石にその日は進也も帰宅したのが遅かったので、すぐに寝床に入ったが、結果的にはリナの言葉が頭の中を何往復もして、またぞろ眠れぬ夜と相成ってしまったのである。翌日の就業時間中ずっと眠くてウトウトしていたことは言うまでもない。 そして金曜日の午後、いつものように秀雄が進也を飲みに誘う。 「シンちゃん、今日は飲みに行けるんやろ?もう無理にあっちのほうは誘わへんさかい、ホルモンだけでも付き合いーな。」
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