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◆逢瀬、そして契り・・・
来る土曜日。天気は上々、十一月中旬にしては少し暖かいか。
進也は朝から部屋の片付けにおおわらわ。
以前からある程度の予想はしていたので、大掃除までには発展しない。それでも窓を開けて少しこもった空気を追い出し、日向の匂いがする風を招き入れる。
四十男の一人暮らしなんて若い女性の目から見たら酷いものである。レースのフリフリが付いたカーテンも花柄模様のカーペットもピンクの壁紙もない、地味なモノトーンの視界が広がるむさ苦しいスペースでしかないだろう。それでもできる限りの努力は確保されなければならない。
今日はリナの仕事もお休みのようだ。待ち合わせはK市駅ロータリー午前十時半。進也がクルマで送り迎えすることになっている。
時間がランチ前なのをお気づきだろうか。そう、今日は彼女がお手製昼ごはんに挑戦するらしいのだ。
男にとって手料理ほど落とされやすいものはない。リナもその辺りは充分に計算しているのかも。多少は失敗しても許されるだろうことを。
さて、部屋の掃除は終わった。後はリナを迎えに行くだけである。時計を見るとまだ九時だから出かけるには少し早い。
「花でも買って飾っておこうか」などと余計なことを考える。
それでもコーヒーが無かったのを思い出して、途中で買い物をすることに決めた。ワクワクしている気分だけは花柄模様である。
K市駅ロータリーには約束の少し前に到着していた。
やがて自転車置き場から姿を現すリナ。すぐに進也の車を見つけて手を振りながらやってくる。
「おはよー。今日は朝からちょっとドキドキしてる。」
「そう、何を作ってくれるかまだ迷ってるとか?」
「まあ、それはないかな。ランチやから難しいのは作らへんで。」
「全然大丈夫やで。いつもやったらカップ麺やレトルトで済ませてしまうし。それよりも品粗やったら笑うしかないけどな。」
「たぶん・・・・大丈夫・・・・やと思う。」
なんとも自信のなさげな返事だ。
「きっと、リナが作ってくれるんやから美味しいやろな。」
「あんましハードル上げんといてな。まだ花嫁修行中やで。大目に見てな。」
「わかってるって。」
そんな会話の後、進也は自宅アパートへとクルマを走らせた。
途中のスーパーで足りないものをお買い物。今日のメニューはミートパスタらしい。玉ねぎとトマトとパスタは持参している。ひき肉とベーコンを買い足した。
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