18人が本棚に入れています
本棚に追加
もう一度唇を求めに言った進也は、祠の中の女神様への丁寧な参拝も忘れない。やや開いたリナの唇から女神様が現れて進也を出迎えた。ネットリとした心地よい柔らかさが進也の背筋を振るわせる。やがて、そっとリナの体を離して、
「さて、お昼ご飯にかかろうか。」
「うん。」
二人はスッと立ち上がってキッチンに向かう。
「リナが一人で作るから、シンちゃんはあっちで待ってて。大丈夫やし、ミートソース作ったことあるし。」
ちょっとムキになっているところも可愛い。
「ヘルプが必要になったら呼んでね。あんまり役に立たないかもしれないけど。」
そう言い残して進也はリビングへ戻り、テレビを見ているフリをする。耳はキッチンに集中していた。まな板を叩く音、油がはねる音、湯が煮立つ音、全てが新鮮な和音となって進也の耳を楽しませる。
音の次は匂いだ。特に匂いフェチの進也には堪らない匂いが部屋中に充満してくる。時々様子を見に行こうとキッチンに足を踏み入れようとするが、その都度リナの鋭い目線に阻まれる。
時計の針はそろそろ午後の一時を示そうという頃、キッチンからリナの嬉しそうな声が聞こえてくる。
「シンちゃんできたよ。テーブルの上を片付けてな。」
言われるまでもなく、すでにテーブルの上はピカピカに用意されている。フォークとスプーンとドリンク用のグラスまで。流石に昼間からのワインは憚れるかと思ったので、オレンジジュースが用意されていた。
「ポテトサラダは家で作ってきてん。」
そう言ってレタスの上に鎮座しているゴロゴロポテトサラダも旨そうだ。そしてメインのミートパスタ。これも平打ち麺なので珍しい。
「この部屋で食べるランチにしては豪勢やな。さっきからエエ匂いが充満してるから、お腹ペッコペコやねんけど。」
「うふふ。リナの作ったの絶対に美味しいから。」
「いただきまーす。」
確かにそれは自信作のようだった。平打ち麺がなかなか美味しい。ひき肉の味付けも自賛するだけのことはある。ポテトサラダも充分に進也の舌を満足させていた。
「リナの歳でこれだけの料理ができたら十分やない?」
「えへへ。でもまだレパートリーは少ないねん。もっと今から勉強するし。」
「また作りに来てな。」
「まだ食べ終わってないし。」
外の風は日々冷たくなっているが、この部屋の中だけは空気もハートもポカポカと春の陽気が訪れているようだった。
最初のコメントを投稿しよう!