◆逢瀬、そして契り・・・

11/19
前へ
/209ページ
次へ
流石に人の流れが絶えない中、おおっぴらに抱き合うことは憚れた。それでも十一月という季節が二人の立つ距離を縮めている。 「また明日。リナと一緒にボクも卒業。」 「リナが卒業したら、もう行かんといてな。」 「次からはリナんとこへ直接通うがな。」 「うふふ。」 そして餃子のニオイをプンプンさせながらバスへと乗り込むリナ。今夜中に餃子の匂いが抜けることはないだろう。 時間通りに発車するバスのドアは無情にも二人の間に壁を作る。やがて動き出すバス。バスの中で手を振るリナ。進也はバスの姿が見えなくなるまで、その場所を離れなかった。 部屋に帰ると再びやもめの空間。 しかし、リナの残り香がそこら中に散乱していた。ネットリとしたキスを交わしたリビングのソファーに、そして熱く抱き合ったベッドに。 今宵はリナの香りを贅沢にまとって眠ることになるのであった。 日曜日も晴れやかな朝だった。眩しい朝日も鳥のさえずりも清々しい。 すでに進也は起床していた。 この日はミホの卒業日。夜にはクルマを飛ばして会いに行く。日の明るいうちは大人しくしておこう。 そう思っているうちに秀雄から電話が入る。 「昨日のデートはどうやった?そろそろ進展したんやろ?」 「せわしないな。今日は家族サービスしいって言うたやろ。」 「そんなもん誰もどこぞへ連れて行けなんて言わんがな。それよりもシンちゃんの恋バナの方が断然面白そうやし。出かけんのは何時や?それまでは時間あんねやろ?」 そこまで言われてはもう諦めるしかない。 「しゃあないな。昼飯食いにいこか。」 「会社で待ち合わせな。近所の店でエエやろ。」 進也は簡単に身支度をして部屋を出た。 会社の前ではすでに秀雄が進也の到着を今か今かと待ち構えていた。 「おっそいな。わざと遅く来てないか。」 「アホ言いな、まだ十二時前やないか。ヒデちゃんが早すぎんねん。」 「まあええわ、行くで。ついておいで。」 そう言うと秀雄はクルリと進也に背を向けて歩き出す。ついて来いと言わんばかりに。 「どこ行くねん。なんか嫌な予感がすんねんけど。」 「大丈夫や。ちょっと変わったモン食わしたるだけや。」 以前にも話したとおり、秀雄の探す店は冒険心溢れる店が多い。今日もその類なのか。 十分も歩くと看板が見えた。 『大阪スタミナ軒』 店名だけならどこにでもありそうな感じである。
/209ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加