◆逢瀬、そして契り・・・

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「そうやと思う。女の子辞めちゃうからね。オープン前のミーティングでも、最初で最後にしてねって店長が言うてた。」 「そらそうやろな。でも最初でよかった。」 そう言って進也はミホを抱き寄せる。店では最後の時間。いい想い出づくりをしたい。 もうすでにミホの体を知っている進也。ここでは抱き合い、唇を求め合えば十分だった。 すでに二人だけの世界に入ってしまっている進也とミホは、店の中で明らかに別世界と言える空間にいた。 まだ何人か残っていた客も徐々に帰宅し、やがて二人だけが店内に残された。 気を利かせた店はBGMを激しい音楽からムードのあるバラードに変える。十二時五十分になると、新たな客の受付を行わない。店が二人のためにBGMを変えたということは、すでにその時間が過ぎているということを示していた。 「ボクの残りの時間はあと何分?」 「ミホとシンちゃんのやろ。それやったらあと二十分やで。」 「もう誰もおらんようになったな。これやったらエッチなことしてもバレへんのちゃう?」「アカンで、最後に変なことして怒られんといてな。」 「へへへ、わかってるって。」 進也は少し面白がってみせたが、今日の目的は静かにミホを送り出すこと。そして自らの手に迎え入れること。そのためには店との間にトラブルがあってはならない。 「後は静かにラストタイムを迎えるだけ。それまでずっとボクんとこにおってな。」 「うん。」 今や二人の間に多くの言葉は要らない。ときおり愛をささやく言葉があればよい。それでも常に会えている訳でもないので、一緒にいる時間をそのほとんどは唇を重ねあうことに費やしている。 やがて時計は二十五時三十分を示し、店内には営業終了のBGMが流れはじめる。 すると受付のお兄さんが大きな紙袋を持って来て進也に渡す。 紙袋の中には進也が用意してきた花束が入っていた。 「卒業おめでとう。」 進也は花束をミホに渡すと、最後に抱きしめてから最後の言葉を贈る。 「明日からは、ボクだけのリナちゃんや。あらためまして、よろしくね。」 「ありがとう、花なんかもらったんはじめてや。リナもよろしく。」 ミホとしての最後のお見送り。場内のコールがかかる。 =ミホさん十五番テーブルスタンド&バイ= それまで控え室で待っていた嬢たちがこぞって進也を見送ってくれる。
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