◆進也の友だちとリナの友だち・・・

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「そっか。今日のところは帰るかな。いやいや、ちょっと行って来る。」 「明日遅刻せんようにな。最終電車があるうちに帰りや。」 ホルモン屋を後にした三人は、駅の方に向かって歩いて行き、秀雄が梅田方面の電車に乗るのを見送り、進也とリナは駅前のコーヒーショップへと入っていった。 「あの人今から『ナイト』へ行くん?」 コーヒーをすすりながらリナが進也に尋ねている。 「たぶん行ったやろうな。」 「リナのことマヤさんに聞きに?」 「たぶんね。でもマヤさんやったらエエように答えてくれはるんちゃうかな。」 「そうやったらエエけど。」 「余計な心配してたらシワになるで。」 「いやっ。」 温かいコーヒーは二人の酔いを程よく醒ました。十二月の風も酔い覚ましにはかなり貢献したようだ。 やがてコーヒースタンドを出た二人は、手をつないで駅に向かう。 「今日はホントに帰らなくてもええの?」 「うん、明日休みやから帰らんかもしれんて言うて来た。それにお母さんにはシンちゃんのこと話した。最初は気まずそうな顔してたけど、リナが真剣やって言うたら納得してくれた。いっぺんどんな人か会いたいって言うてた。」 「大人の対応しなアカンな。」 「シンちゃんはいっつも大人やで。」 帰りの電車の中も二人の手はずっとつないだまま。 今から進也の部屋に二人で行くという事はどういう事か。二人は胸の中で深く意識していた。つないだ手のひらがどんどん汗ばんでくるのがわかる。 少しの沈黙の後、口火を切って話し始めたのはリナだった。 「あそこの親方さんって、シンちゃんに親切やな。シンちゃんを見る目が優しかった。」 「もう十年ぐらいの付き合いかな。色々と愚痴を聞いてもろたり、相談にのってもろたりしたからな。ボクの弱みもよう解ったはる。もし、ボクがおらんときに、ボクのことでなんかあったら、あの親方を頼って行ったらええで。頼りになる人や。」 「シンちゃんが言うねんから、間違いないやろな。」 こうしてリナもあの店に対する意識が印象付けられた。 やがて電車は進也の自宅近くの駅に到着する。駅から進也の自宅までは徒歩で約五分。ものすごく近いわけではないが、バスに乗るほどでもない。少し酔った体を醒ますにはいい距離だ。 ほどなく進也の部屋に到着する。玄関を開けてリナを中に引き入れると同時に、進也はリナの唇を奪った。リナも抵抗せずに、体を預ける。
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