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会社の後輩からも下の名前で呼ばれているし、上司などは呼び捨てである。四十になってもさほど偉いポストにもついてない、しがないサラリーマンの成れの果てといったところであろうか。
それはさておき、秀雄の面白い店ってなんだろう。
秀雄は進也よりも冒険家で、店の検索パターンが進也とはかなり違う。進也の場合は割りとひなびた店や古風な店を中心に探していくのだが、秀雄は少しグロテスクな店や遊び心満載の店まで検索してくれる。
進也は少し遠慮がちだった。一度秀雄に連れられて行った店では、ワニの唐揚やカンガルーのステーキが出てきて、かなり驚かされたこともある。今回もそういうたぐいの店だろうか。しかし、お腹の方は満腹メーターがそこそこの警笛を鳴らしている。
進也が少し渋い顔をしていると、秀雄はニヤニヤしながら面白そうに話す。
「今から行くところはもう食べれるもんはないで。いや食べようと思たら食べれるかな。ちょっとニュアンスは違うかもしれんけど。」
「酒の方もそろそろゴールが近いで。もうソフトドリンクでええぐらいやし。」
「もちろんそれでもええで。あとはシンちゃんのお好きなように。」
お好きなようにといわれても、メニューも趣向もわからないのに選びようがないとは思わないのだろうか。それともそれが彼なりのお遊びなのだろうか。
「とりあえず、行ってみよ。どんなとこかは行ってからのお楽しみってことや。」
まあ、彼が面白いというのだから、きっとそれなりに面白いのだろう。
進也はちょっとだけの期待感を持って彼の後に続いて歩き始めていた。
会話の語尾や端々を聞いてもらっても解かるとおり舞台は大阪である。
進也も秀雄も揃って大阪生まれの大阪育ち。コッテコテの関西弁が会話の主流である。
その雰囲気も本編には関係するので、登場人物の会話内容は、そのまま関西弁で記述していくが、それではあまりにも読者諸君には解りにくくなる可能性もあるので、会話の部分以外は標準語で進めていくこととしよう。
今夜は天気も良く月も明るい。街中なので流石に満面の星空は見えないけれど、商店街のネオンは眩しい。二人は入り組んだ繁華街のアーケードをいくつか渡り歩いたところにようやく辿り着く。
「あそこの角を曲がったところにあるはずや。」
秀雄は前もってプリントアウトしていた地図を頼りに指を刺す。
「あった、あった。」
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