18人が本棚に入れています
本棚に追加
この先輩には世話になったこともある。必要な書類であることも事実だ。ボクは泣く泣く残業態勢に入る。修正箇所は全部で五箇所。数字の計算間違いと文字の間違い。それぞれを実績と照らし合わせて修正する。
それを上司に確認してもらってハンコをもらう。ここまでがざっと一時間。早く終わらせて、店に行きたい自分との戦いである。
手っ取り早く修正した書類を東京へ送信する手はずを整え、キョトンとした表情の上司を会社に残して階段を駆け下りる。
店に着くころには、もうあたりは完全に夜の装い。
ぼちぼち季節は梅雨の終りかけ。雨は降っても日の入りの時間までが天候に左右されるわけもなく、朝は早くから明るく、夜は遅くまで明るい季節となっている。
それでも今宵の到着時間には、すでに太陽の姿は、その気配すら感じなかった。
ポタポタと残り雨のように雫が落ちている夜。
店の中ではすでにBGMが鳴り響き、店の前までその振動が伝わるほどに、かなりの音量で賑やかさを呈していた。
いつもの受付で、「ミホさんを」と指名してフロアに入る。
「シンちゃーん。」
と言ったがすぐにボクの腕に抱きつくミホ。
「どうしたん?」
それでもボクの腕にしがみついて離れない。
「なあんてね。」
なんておどけてくれるのかと思ったら、ボクに抱きついている腕の力がどんどん強くなる。
「どうしたん?」
最初のコメントを投稿しよう!