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その日は用事があって大阪市内をうろうろしていた。流石に都会の人ごみの中ではどこを歩いていても汗が吹き出てくる。
そろそろランチタイムか、などと思いながらエアコンの効いている某百貨店へ逃げ込んでみた。みんな考えていることは同じだからなのだろうか、ここも人だかりで室温がかなり上がっているようだった。
それでも喉を潤そうと、店内のジューススタンドバーへ寄ってみたら、
「あっ。」
「んっ?」
お互い目が合って、途端に目を背ける。
少し遠い位置の斜め向かい側にいたのがミホであった。
ボクは一人だったが、彼女は友だち連れだったので、声をかけることを躊躇した。
彼女の本当の名前を知らないし、彼女も客に会うのは嫌がるだろうと思ったからである。
ボクはお決まりのミックスジュースを注文して待っていた。彼女たちは少し早く来ていたのだろうが、おしゃべりに夢中で手元のカップが空になっているのも気づいてないのか。
それでも、ボクより少し早いタイミングでスタンドを後にしていた。
それを見送ってからボクもスタンドを立ち去り、少し濡れた手を洗うためにトイレに向かう。少しべたついた手を洗い、ハンケチで手をぬぐいながらトイレを出た途端、
「シンちゃん。」
と声をかけられて驚いた。
「やあ、・・・・・・。なんて呼んだらええんかな。お店の外であんまり慣れなれしいのはあかんよね。」
まだ遠慮がちに話していると、
「そんなに気にせんでも大丈夫やで。それより、こんなところで会うなんてすごい偶然やなあ。ビックリしたわ。」
「ボクかてビックリやわ。せやけど友達と一緒やろ?あんまり長いこと離れてるとなんかあったて思われるで。」
「もう用事は済んでんねん。あとはランチ食べて帰るだけや。今日は一緒におられへんけど、今度会うた時には一緒にご飯食べてあげるわ。」
「約束やで。」
「うん、ええで。」
どこまで本気かわからないけど、急ぎ足でそんな約束を交わし、その時は別れたのだった。
しかし驚いた。まさか土曜日にこんなところで会うとは思わなかった。
確かに最近シフトが「日月水土」から「日月水」に変わっていた。
客入りの良い金曜日と土曜日のシフトを外したのはなぜだろうとは気になっていた。
元々人見知りだとは言っていたが・・・。
そして週があけて翌週の火曜日。
暦は八月に変わっている。
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