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積乱雲の到来が毎夕方に訪れ、毎日ゲリラ豪雨の襲来を危惧しなければならない季節となっていた。
しかし、普段は屋内の仕事が多いため、夕立に遭遇することなどは滅多に無いのだが、この日は大当たりで、まさに久しぶりに行った得意先から道路へ出た途端に滝のような雨が落ちているのが見えた。
建物の玄関先から地下鉄の入り口までは約十メートル程だったが、ダッシュで駆け込んで立ち止まった瞬間、同じようにして駆け込んできた人がボクの背中を押した。
「やあ、危ないな。」
そう言って振り向くと、
「あっ。」
「んっ?」
お互い目が合って、途端に目を背ける。
ボクの背中を押したのはミホだった。偶然のデジャブーが記憶の底から蘇る。
「ミホ、なんでこんなとこにおるん。K市とちゃうかったっけ?」
「今日は部長のお使いやねん。月に一回ぐらいあんねんけど、まさかやね。」
「こういうのをドラマチックっていうんかな。これからどうするん?会社に帰るん?」
時計を見ると午後3時を回ったあたり。中途半端な時間だ。
「書類を預かったから戻らなアカン。でもお茶ぐらいやったらOKやで。」
「いいお誘いやね。乗ってもええかな。ほんなら、その辺でちべたいコーヒーを熱々で飲もか?それとも焼肉行くか?」
「シンちゃん、焼肉はまだ早いし、ミホは行かへんって言うたで。」
「行かへんのは本気なん?」
「行ったらアカンていうたのはシンちゃんやんか。ようは連れて行ってくれへんていうことやろ?」
ちょっとすねて見せるミホ。会社の制服だろうか、かなり可愛い。女性の制服姿って、男はみんな魅せられるよね。だからお店でもコスプレフェアとかを頻繁にやったりするんだろうけど。
それはともかく、
「ボクでよかったら連れて行ってあげるで。それに、この前会ったときは、今度会ったらご飯一緒に付き合ってくれるっていうてたやん。」
「そうやな。せやけど、今日は一回会社へ帰えらなアカンし、ご飯はまた今度な。」
『また今度』の次の機会がどんどん具体的になってっくる。
「とりあえずコーヒー飲みにいこ。さあ、そこの綺麗なおねいさん、ボクと一緒にチャーしばきに行かへん?」
「なにそれ?」
今の若い娘たちは知らないのだろうか。ボクが若いころに流行ったナンパの決めセリフ。
とりあえずボクたちは地下に潜り、地下街の喫茶店に入る。
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