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それに、ミホの出勤は週に三日。しかも週末の出勤が日曜日だけというシフトなので、夜遊び上手なヒデちゃんのスケジュールとも合わずにいるに違いない。
さて、今宵はうまく誤魔化せたかな。
そして待ちに待った土曜日が訪れるのである。
八月最終週の土曜日。晴天、湿度高し。朝から残暑が猛烈に厳しい。
前日にメールで連絡してあるのは、地下鉄T線R駅中央改札口午前十一時三十分。
「お腹を空かせておいでね」としてある。
やがて待ち合わせの時刻が近づいてくる。するとどこからともなくミホが現れた。
「おはよー。待った?」
「いいや、ここではたったの数十分しか待ってないで。せやけど昨日から待ちわびてたから、トータルでは十時間ぐらい待ってたかな。」
「うふふ、いつも通り、トークも快調やね。」
今日も眩しい笑顔が嬉しい。
「さてお嬢さん、今日は初めてのデートなのでかなり緊張しています。お手柔らかにお願いします。」
「なにそれ、まるでミホがシンちゃんを従えてるみたいやんか。」
「気持ち的には恋の奴隷やで。」
「うふふ、ウソばっかし。おもろいな。」
今日のコースはランチタイムの焼肉である。どこまでガッツリいくのかはわからないが、とりあえずは無難なレベルの焼肉屋を予約してある。
「遠慮はせんでええけど、ボクが破産せん程度にしといてな。」
このあたりからトークも軽快に弾んでいないと大阪人としては失格である。
「めっちゃハングリーやから、店ごと空っぽにしたげるわ。カルビだけ残してな。」
ミホも負けじと応戦してくる。
「今日はお休みやろ?ビール飲む?」
「あんまりたくさんは飲まれへんけど、ちょっとだけいっとこかな。」
ボクらのオーダーは、ビールとナムルとタンとヘレからスタートした。
「とうとうホンマに来てしもたな。今日は何時までに帰したらええの?」
「無事に帰してくれるんやったら何時でもええで。」
「無事ってどういう状態のことを言うん?手足が取れてなかったらええかな?」
「こらこら。ミホも一応、嫁入り前の体やねんで。大事にしてな。」
「はいはい。肉を食うてから考えるわ。まずは、初デートに乾杯や。」
もちろん端から襲うつもりなんてない。今日は楽しく食事ができればいい。それしか考えていなかった。初デートだから、コンロを挟んで向かい側。ホントは隣に座りたいところだけど、今日はガマンしよう。
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