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マニアックな焼肉談義はそこそこにして、ミホとの楽しい焼肉タイムはほどよく満足のいくデートとなった。
「シンちゃん、美味しかったで。ホンマにいろいろごちそう様やな。」
「ん?いろいろって?」
「シンちゃんとおったら、いろんなこと教えてくれるやん。それも面白いし、ごちそうさまやで。」
「ミホの仕事はおしゃべりも大事。いろんなこと勉強しなアカン。ボクから吸収できるもんあんねやったら、どんどん吸収してな。」
「うん。今日はありがとう。」
「もう帰るん?」
一応引き止めにかかる。ボクの初デートとしてはすでに満足していた。
「どこに行きたい?」
「本音を言うたら、密室になるとこ行きたいけど、今日は約束やから、ここで帰してあげる。これ以上一緒におると、どっかの密室に引きずりこんでしまいそうやから。」
「やっぱり優しいな。思た通りや。シンちゃんは絶対にムチャできひん人やねんな。ミホの見る目は正しいってわかったわ。」
「安心しすぎたらアカンで、今日はガマンするって言うたんやで。次はできひんかもよ。」
「うふふ。今日無理やり誘われたら、大きい声出して逃げたろ思てた。せやけどそんな心配いらんかったわ。シンちゃん、また次もデートしたげる。お店も来てな。」
「来週の水曜日にな。」
流石にまだ日の明るい往来のど真ん中。キスはおろか抱き合うことも憚れた。
それでもボクは、ちょっと甘える口調でおねだりしてみる。
「駅までは手をつないで歩いてもええかな?」
「ええよ。恋人同士に見えるかな。」
そう言ってボクに手をさしのべるミホ。
ニッコリ笑ってボクはその手を引き寄せた。
「見えるに決まってるやん。鼻の下がめっちゃ伸びてるやろ。」
「そんな恋人っておらんし。」
この後は駅まで送って行き、改札口の中へと送り出す。
そしてミホは北行きの電車に、ボクは東行きの電車に乗って帰って行く。
少し物足りない感じもしたけど、初デートだと思えばこれで十分だった。ひとまず「大丈夫な人」の称号は確保できたようだ。
やがて九月の第一水曜日がやってくる。
この日はボクがミホを訪れるパターンの水曜日だ。
ボクはいつもの様にヒデちゃんの目を潜り抜けて会社を出た。いつもの通り終業時間が訪れてすぐのタイミングである。もちろんこの日も朝からシャワーに入り、念入りに髭をあたっていることは言うまでもない。
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