◆三人称の視点・・・

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◆三人称の視点・・・

進也がミホと次のデートの約束をした翌々日のことである。 九月における進也の会社は相当忙しかった。 役所がらみの仕事は年度としては四月からだが、実質の事業スタートは七月から八月にかけてが通常である。 そして、作業として最初にテンコ盛りとなるのが九月なのである。 進也も秀雄も毎日残業が続いた。 「シンちゃん、こう毎日遅くまで仕事しとったら気持ちが腐ってまうな。今日は遅うなったけど、ちょっとビール飲んで帰らへんか。」 「そうやな、どっかで発散しとかんかったら死んでまうで。」 ちょっとオーバーな内容が大阪の会話らしい。いつも二人の会話は少し盛りぎみだ。 「はよ終わらしてコキコキ行くで、今日はのっけからホルモン突きに行こか。」 この日の仕事も終盤が見えた頃、二人の行き先が決まったようだ。 大阪の街並みでホルモンの店は珍しくない。元来、焼肉文化の進んでいる地域とも言える街である。二人は御馴染みともいえるホルモン屋の暖簾をくぐった。 「親方、二人あいてる?」 「おう、ヒデちゃんとシンちゃんやないか。カウンター空いてるで、ここに座りぃ。」 どうやら親方とはかなり親密なようだ。 「ナマチュウ二つとミックスホルモン焼き二人前と塩キャベな。」 決まっているかのような注文の仕方も、かなり板についている。 二人は冷たいビールを喉の奥に注ぎこみながら、ホルモンを目の前の七輪で焼き上げていく。モウモウとした煙と共に、タレの焼ける匂いが香ばしい。 「ところでシンちゃん。『エロナイ』のことやけど、こないだっていうか、実は昨日行ってきてん。ほんならオイラのオキニの嬢がな、やっぱりシンちゃんのことを見たっていうねん。しかも一昨日の話や。流石に直近のことやし、オキニの嬢も前の事あったから、絶対間違いないって言うねん。怒らへんから、正直に言うてみ。」 進也は進退窮まった。まさかそんなニアミスが起こっているとは気づかなかった。昨日一昨日のことを朧気に誤魔化せるはずもなく、一部については白状すべからざる状況に陥ってしまった。 「せやな、一昨日は行った。こないだ一緒に飲んだときにな、ヒデちゃんが『エロナイ』の話をするから思い出してしもたんや。ちょっと顔出しただけやし、おおっぴらに遊ぶつもりもないからこっそりと行ったんや。」
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