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「そうやな。ホンマの事やな。ほんならボクの友だちのミホちゃん、ご飯食べにいこか。」
二人は自然の流れで手をつないでそぞろ歩き始める。
進也が予約を入れた店は、待ち合わせの場所から七~八分も歩いたところ。お洒落なレンガ造りの壁とブーケが飾られたドアが女性客のハートを掴んでいるかのよう。
「シンちゃん、なかなかお洒落な店を知ってるやん。ようココへ女の子連れてくるん?」
いたずらっ子っぽい目線を投げかけて、ニコッと微笑む。
「初めて来る店やで。ミホが好きそうなんはこんな感じかなと思って。」
今日の料理はシェフのおすすめコース。進也もイタリアンについてはさほど詳しくもないので、料理のチョイスはシェフにお任せしてしまう。
「ビールにする?ワインにする?それとも?」
「折角やし、ワインにしよかな。でもそんなに飲まれへんで。」
二人はグラスワインを注文し、今宵の二人の宴に乾杯。
『チン!』
シェフのおすすめは、サラダに始まりピザで締める。メインは子羊のローストのようだ。
「ボクはこんな洒落たお店なんてなかなか来る機会が無いから、ちょっと緊張してるのわかる?」
「それにしては女の子とのデートにはピッタリの店やけど?」
「喜んでくれてちょっと安心したわ。ドキドキやったんやで。」
店内は若い男女の客が多く、ボクのような中年は目立つことこの上ない。
「本当はミホもそれなりの彼氏と来たかったんやろ。こんなオッチャンでゴメンな。」
「ええねん。シンちゃんやったら楽しいから大丈夫やで。最近の若い男はなんか勘違いしてるとこあるように見えるし、シンちゃんみたいな大人の男の人は憧れやで。」
そう言われて嬉しくないわけもなく、
「あんまりオッチャンをからかったらアカンで。」
少しはにかみながら答える。
彼女はホントはどう思っているのだろう。ご飯をおごってもらえるオジサンとの食事会。そんな程度だろうなと思っていた。
イタリアンの食事会はゆったりと一時間半ほど。ボクは会話が途切れないようにネタの収集に余念がなかったので、話は大阪人らしく弾んだまま時間を通り過ぎる。
ときおり、彼女の手を握ったり、彼女から手を握らせたりすることを忘れなかった。
若い娘とオジサンの食事会とはいえ、ボクとしてはデートのつもりである。かなり頑張って楽しい空間を造り上げていた。
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