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結果的にこの第一フレームの結果が二人の合計の差となった。進也は散々な結果に、ミホはそれなりの結果に。
「よし、今度は負けへんで。」
しかし言うのは容易い。結局のところは次のゲームにおいても進也が名誉を挽回することはなかった。
「シンちゃんはヘタやな。真っ直ぐに投げられへんて、やっぱりひねくれてるんやで。」
「そうやな、ひねくれ者なのは認めるけど、ちょっと今回の結果は納得いかんな。でも、これ以上やっても結果は一緒のような気がする。今回はミホの勝ちやな。」
「ミホが勝ったら、なんか商品があるん?」
「何が欲しい。」
するとしばらく考える仕草をして、
「ううん、なんもいらん。今日も無事に帰してくれたらええ。」
「しゃあないな、負けは負け。今日も諦めるわ。」
「ありがとう。うふふ、やっぱりシンちゃんはええ人やな。」
どうやら進也も狼にはなりきれない性格だと見える。
時間はすでに午後九時を回っていた。随分ゆっくりとボウリングを楽しんだものだ。
「今日も楽しかったで。無事に帰したげるさかい、気いつけて帰りや。」
「またお店にも来てな。」
ここは大阪の繁華街。中心部からミホは淀川の北の地域へ、進也は南の地域へと帰る。エンジ色の電車が走る駅までミホを送り、「またね。」と言って手を振る進也。「うん。」と言って笑みを返すミホ。
二人のランデブーは今宵も淡い雰囲気だけを残して幕を下ろそうとしていた。
一旦背を向けたミホが、再び進也の元へ駆け寄って、ほっぺに軽くキスを置いていく。
「今日はホンマにありがとう。また連れてってな。」
それだけ言い残して、すぐに改札の中へと消えていく。
一瞬の出来事に、その場で立ちすくむ進也。予想外の置き土産に少し戸惑っていた。
「まあ、今日のところはこれで満足しておくか。」
そんな独り言を呟きながら踵を返し、深緑色の電車に乗るためのホームへ向うのだった。
やがて九月も中旬を迎えると、朝の風が涼しく感じる日が現れる。昼間との気温差に苦しめられる季節の始まりと言っても過言ではない。
進也はどちらかというと暑さ寒さをあまり気にしないタイプで、さほど汗かきでもない。それでも忙しい日常はむせ返る気温が仕事の能率を低下させているに違いない。
普段は会社をはけると、近所の馴染みの食堂で食事を済ませ、あとは部屋でのんびり過ごすことが多く、秀雄と飲みに行くのは月に二回程度か。
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