◆三人称の視点・・・

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自分でもわかっている。いつも一言が多いのだ。余計な一言を喋ってしまったおかげで別れてしまう結果になったのが、進也のこれまでの恋愛事情である。 だからこそ、それを解っている進也にとって、ミホに対する恋愛感情は慎重にならざるを得ないのだ。 特に離婚間際の彼にとって、新しい恋人などはいてはいけない存在なのである。そんな欠片や気配さえも公にはできない。そのこともあって、ミホに関しては秀雄にも知られてはいけない一端となっているのである。どこで何が漏れるかわからないと思っていた。 そんなこんなで秀雄の誘いをかわして、進也は次の水曜日のことを視野に入れていた。コンスタントに通うことが親密度を深める手段のひとつと考えている。そう、彼はマメな男なのである。 嬢たちがPRのために活用できるブログのページがあることは以前にも記しておいたが、どうやらお店のお偉いさんの提案で『ブログ週間』というのができたらしい。嬢たちはこぞってそれぞれのブログを存分に書き始めていく。今までアップをサボっていた嬢たちも客からせがまれてか、どんどんアップしていく。 ミホにおいても漏れなくであった。『ブログ週間』のちょうど中間点ぐらいの時期に、以前に進也がブログ用にとプレゼントしてあったお茶の記事がアップされていた。 これに気を良くした進也は次のネタの提供を考える。更に、ちょうど都合の良いことに、この週末に東京への緊急収集会議が決まった。対象事業の担当者は秀雄ではなく進也だったので、喜び勇んで東京へ向かう。もちろん、お土産の『ごま玉子』の第二弾を入手するためである。 この際、進也にとって会議の内容などどうでもよかった。実際には必要最低限の仕事はこなしてくる。しかし、それが終われば後は東京駅で『ごま玉子』を探すことのみに気合を集中するのだ。 そして、「あったあった。」彼が見つけたのは期間限定の『ごま玉子チョコ味』。もちろん即購入。大事に持って帰ったとさ。 そして、待ちに待った水曜日。進也は鞄の中にお土産を潜ませて出勤する。この日は午後から出張である。得意先での打合せと営業を終えた進也は十七時、会社への報告を済ませると、いつものように直帰が許された。ほくそ笑む進也の顔を想像したまえ。少しワルイ奴の顔に見えるかも。
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