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そしてマヤ嬢がやってっくる。彼女はボクの顔を見るなり薄っすらと笑みを浮かべた。
「やっと会えたな。あんたがヒデちゃんのお友達やな。なんやヒデちゃんよりハンサムやんか。で、ミホちゃんのお客さんやねんな。」
「あのう、マヤさん。お願いがあるんですけど。」
するとマヤ嬢はそれだけで理解したようにうなずいた。
「わかってる。今日来てる事とか、ヒデちゃんに言わんように、やろ?」
「はい、お願いします。」
「そのかわり、しょっちゅう通ったってな。ちょっとでもお客さん多いほうが、お店も賑やかになるし。それがみんなのためになるって言うことやし。」
中々達観した人だ。素直にそう思った。彼女に言われたからではないが、結果的にボクはしょっちゅう通う客となるのではあるが。
結論を言うと、マヤさんとちゃんと話が出来てよかった。少なくとも今後、彼女の口からは、ボクがここへ通っていることがヒデちゃんに伝わることはないだろう。
数分もするとミホはボクのところへ戻ってくる。
「フリーやから短かったやろ。」
「ボクにとっては一分でも長すぎる。あんまり淋しい思いさせんといてな。」
ボクはミホが戻ってくるなりすぐに唇を求めたがる。ミホも素直にボクに唇を奪われてくれる。そんな時間が今のボクにとって唯一の心のゆとりの時間。柔らかな彼女の体を腕の中で確認して、匂いを堪能して、何だか安心した気持ちになって落ち着いていく。
「とにかく帰ったら、来週の火曜日か木曜日に甲子園でナイターがあるかどうか調べるから。わかったら連絡するし。せやけど、雨降ったらどうする?」
「そんときはそんときや。ご飯だけ食べて帰ったらええやん。」
これで、晴れだろうが雨だろうがデートの約束は取れたことになる。
このところ、ボクの店での遊び方は少し変わってきたかも。
すでに何度かミホとはデートを重ねてきているので、気持ちに余裕があるのは確かだ。今となっては、下心を持って少しエッチなことを考えたいなどという領域は超えていて、いろんな意味で今のボクにとって最も失いたくない存在となってしまっている。こういうのを恋心というのだろうか。いや、すでに恋煩いとなっていることは間違いないだろう。
ボクの恋を自覚したのはこの夜だったかもしれない。
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