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確かに照れくさい。握っている手がドンドン汗ばんでくるのがわかる。ボクの手のひらは犬の鼻のようにいつも濡れている。ちょっと緊張しだすとボクの手のひらはさらに洪水を起こしたかのように汗があふれ出す。
「ちょっとドキドキしたから、手のひらがビチョビチョになってしまうわ。」
ボクはポッケからハンケチをだして、手のひらを拭う。
「えらいなシンちゃん。男の人でハンケチ持ってる人あんまりおらんで。」
「そんなことないやろ、みんな持ってるんちゃうん。」
「ミホの会社の男の人、みんなトイレの後は手も洗わんと出てきてるか、ペッペッてしたはるで。シンちゃん店でもトイレの後、自分のハンケチで拭いてたの見たことあるし。女の人は清潔な男の人が好きやねんで。そんなところに惹かれんねんで。」
ボクは子供のころからハンケチをずっと携帯している。母親の教育が良かったのだろう、それについては確かに他の女性からも示唆されたことがあった。
「良かった、安心してもらって。」
「それとこれとは別やで。今日からは危険人物なんやで、シンちゃんは。」
そんな会話を交わしているうちに駅に到着する。すでに試合は始まっているが、今から突撃する人も少なくない。おそらくは仕事終わりの人たちがなだれ込むタイミングが今頃なのだろう。人込みの中をしっかりと手をつなぎながら改札を出て、いざ甲子園へ向かう。
すでに優勝チームも決まっており、半ば消化試合的な意味合いも含んでいる時期となっているため、この時間帯でも内野席がとれた。
イニングはすでに三回表。中日の攻撃が始まるところだった。
「まずはビールかな。それとフライドチキン。シートにつく前にビールセットだけは確保して行こう。次の売り子さんがいつ来るかわからんし。」
スタンドに寄ってビールを両手に、ミホがチキンとポテトを抱えてボクの後からついてくる。少し外野寄りの三塁側だが。それでも周囲の客はほとんど阪神ファンだった。それが甲子園なのである。
しかし、流石に十月にもなると少し心地よい風が吹いている。いわゆるハマ風と呼ばれているやつか。
「やっぱり涼しいな、十月やし。ビールではちょっと寒いかもよ。」
「大丈夫やで。上に羽織るもん持ってきてるし。それに寒なったらシンちゃんが抱いてくれたらええねやろ。」
「こらこら、今日から危険人物になる男にそんなこと言うたらアカン。」
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