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◆思い出す・・・
それは、とある弥生の夜のことだった。
進也は思い出してしまったあの柔らかいぬくもりを味わいたい想いと、以前のように恋愛ごっこを楽しみたいという想いを馳せて仕事を早めに切り上げ、秀雄の目を盗むように会社を後にして、久しぶりに『エロチックナイト』を訪ねていた。
進也は秀雄と一緒に行くことは避けた。あまりあの店に関心があることを知られたくないと思ったからである。
店に到着するとドキドキしながら扉を開ける。一人でかような妖しげな門をくぐるのは初めてだから。受付では見覚えのある黒服のお兄さんが出てきて、本日の指名嬢の注文を取り付ける。そしてもちろんミホを指名して待つことになるのである。しかもちゃっかりと2セット分を前払いして。
ここからしばらくは二人のやり取りになるので、進行を一人称の彼に預けよう。
ボクは少し緊張していた。やがてここも見覚えのあるシートへ案内されると、ほどなく彼女がやってくる。
「こんばんは。初めてやったっけ?前に会ったっけ?前に見たことあるよね。」
そう言ってミホはボクの隣に座る。
「二回目やねん。ボクはあんまりこういうお店に来たことがなかったんやけど、キミのこととキミの綺麗なおっぱいが忘れられへんくて来てもた。」
するとミホは目をクリクリさせながら、
「思い出した。ミホのおっぱい褒めてくれた人や。また来てくれるなんて嬉しいなあ。」
そういうと、ボクの首に腕を回して抱きつく。
すると彼女の芳香がボクの鼻腔から脳天へと突き抜ける。
「この瞬間を待ってたんや。ええ匂いや。」
ミホは見た目が素人っぽい。そういう表現があっていると思う。ふわっとしているところがなんとなくいい。と同時になぜか懐かしささえも感じられる。
「もう一回ちゃんと匂いを確認してもいい?」
そう言ってボクは彼女の首筋の匂いを味わってみる。香水臭はなく、女性特有の匂いがする。予想通りにいい香りだ。おそらくは匂いフェチなのだろうボクには忘れられない匂いになりそうだ。
「ボクの名前はシンヤっていうねん。覚えといてな。しばらくは通うことになるかもしれんから。」
ボクは少し思わせぶりな自分の宣伝をしておいて、次に来る時のための伏線を張っておくことを忘れない。
「ほんならシンちゃんでええのかな?」
「ええよ。その方が親しみやすくてええやん。みんなそう呼んでるし。」
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