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一瞬、キョトンとした表情を見せたミホ。でもすぐにニッコリ笑って、
「ホンマは何の本読んでたん?ミホに教えて。」
「ホンマはな、シャーロックホームズの本ばっかり読んでてん。何回も何べんも。」
「へえ、でもそれって誰?」
今の若い人たちはもう知らないんだろうな。あの有名な映画があったことも。そう思いながボクとミホとの年齢差と生きてきた時代背景の違いを思い知らされる。
「ところで、お腹すいてない?ここも軽食ぐらいならあるかも。」
甲子園ではビールを飲みながらチキンやポテトをつまんでいたし、折角だからとカレーもシェアして食べたけど。
「全然平気やで。それに夜はあんまり食べん方がいいし。」
「それもそやな。」
少し薄暗い証明の店内で見るミホの顔は、いつもの店で見る顔の状態に近い。だからボクは少なからずエッチな雰囲気に誘われてしまう。
「なんか『エロナイ』の雰囲気に似てない?隣に座りたい気がしてきたんやけど。」
「アカンで、ここはあのお店やないから。次はいつ来てくれるん?」
「そやな。ミホがブログを書いたときかな。」
筆不精のミホにブログの更新をしてもらうのもひと苦労である。更新が多くなったところでボクの懐具合や人気客ランキングが良好になるわけでもないけどね。
小一時間が経過する頃、時計の針は午後十時三十分を示そうとしていた。
「そろそろ行かへん?もう人だかりも少しは解消してると思うし。」
「うん。」
ボクたちはボチボチ人波が減った駅に向かい、それでもまだ空いているとは言い難い電車に乗って梅田駅を目指した。
梅田に到着すると、ボクは淀川の南側を走る電車に、ミホは淀川の北側を走る電車に乗って帰路につく。
「またね。今日は楽しかった。またデートしてな。」
「うん。シンちゃんやったらいつでもええで。でもお店にも来てな。」
ミホはそう言って別れ際にボクのほっぺにキスをしてくれた。別れ際のほっぺのキスは二回目だ。頬に柔らかな余韻を残して今日も無事に見送る。さらには一時間前の喫茶店で見た薄暗い明かりの下のミホの表情がずっと脳裏に残ったまま。
ほんのりと淡い気持ちが今日もボクの後ろ髪を引いていた。
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