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◆再び三人称の目線・・・
ここからは再び進行を語りに戻してもらおう。
甲子園デートから数日後、進也はかなり儚い想いに耽っていた。
望んでいたこととはいえ、実際に独り者に戻ると、途端に人恋しくなる自分がいる。だからと言って四十になってしまえば、新しい恋の出会いもない。
思い出すのはミホの温かい唇と柔らかい肌のぬくもり。特に梅田駅での別れ際のキッスは進也の心を十分すぎるほど揺さぶっていた。されども彼女とは未だに恋愛の対象とはならない店の嬢と客との関係。思い出したところで儚く消えていく幻のよう。
外の風は随分と秋らしくなり、ときおり冷たい風が進也の頬をすり抜ける。そんなときになおさら独り身の淋しさを実感するのである。
しかし、以前とは異なりプライベートデートができている現在、進也は少しばかり淡い期待を抱いていた。彼女が真剣に自分を恋愛対象に見てはくれないだろうかと。
イメージが想像になり、想像が妄想になるとき、進也はふと現実の次元に引き戻されるのである。「今は今なりで楽しむしかないやん」とね。
どのみち彼女に気に入られたいのは事実である。そのために進也は色々と工夫を凝らして考えるのだ。
そして次の訪問日に進也はミホに自分とのある共通点を見出すこととなる。
では、その様子を見てみよう。
とある夕暮れのこと。いつものように足早に会社を後にした進也は、見慣れた風景を流し見ながら『エロチックナイト』の前に立っていた。
心地よく晴れた空には、少々不気味な目をした半月が進也を見下ろしている。穏やかな夜ではあるが繁華街は人ごみの喧騒だけは消し去れないと見える。風だけはゆっくりと吹いていた。
少しナイーヴな心境で店のドアを潜り抜けて、妖艶な光源が舞い踊るフロアへと足を踏み入れる。
「シンちゃん、また来てくれてありがとう。こないだは楽しかったで。また連れて行ってな。今度はどこへ連れて行ってくれるん?」
のっけから矢継ぎ早で進也に話しかけてくるミホ。進也は少し戸惑い気味か。
「次はどこへ行きたい?どこでもええけど、なるだけ賑やかなとこにしよな。最近ちょっと気分がブルーやねん。どうせやったら賑やかなとこがええなあ。」
「どうしたん?なんかあったん?」
ミホは少し心配そうに進也を見つめる。
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