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「そうやな、元々一人やったけど、いざ離婚してまるっきり独りになったら、何となく淋しいな。ここでミホと楽しい時間を過ごしたら、その後は余計にな。」
「ほんならミホが慰めてあげるさかい、もっと元気出して。笑ってるシンちゃんの方がステキやで。」
女の子というものはときおり矢で心臓を射抜くようなセリフを吐くものだ。このときのミホの言い草がまさにそうだった。
それでも進也はニッコリと微笑んでミホを膝の上に誘う。
「ほんなら癒されよかな。」
ここでの時間は限られている。その間に、ミホの匂いを彼女の感触を存分に体に覚えこませておかねば。進也の今宵は何かを紛らわせるかのような行動に似ていた。
「なあシンちゃん。今度は遊園地に行こか。ミホが楽しませてあげる。」
「ボクはジェットコースターとかは苦手やで。」
それを聞いたミホはなにやら嬉しそうな顔をして、さらに進也を誘う。
「一緒に乗ってあげるやん。何やったら手も握っててあげるで。」
「ボクが小学生の頃、大きな遊園地へ行って、大きなジェットコースターに乗っておしっこを漏らしそうになったことがあんねん。それ以来、落ちる乗り物は大嫌いや。」
ミホはさらに嬉しそう。
「シンちゃんにも弱点があるねんな。なんか可愛いな。」
「そんなこと言うて、またボクをたぶらかそうとするやろ、コイツめ。」
そう言って進也はミホの顔を両手で掴み、おでことおでこを合わせてから、ギュッと抱きしめた。すると、
「なんか今、犬の気持ちがわかった気がした。」
「えっ?」
「ミホんちにも犬がおんねんけど、ときどきシンちゃんが今やったことみたいなんをウチの犬にすんねん。それをされてるときに犬の気持ちがわかった気がした。」
進也はしばらくキョトンとした感じだったが、思い出したようにミホに話し出す。
「きっとそれは、ミホも犬やねんで。ボクも犬の生まれ変わりやけど、ミホもきっとそうなんちゃう。」
「そうかな。ほんなら犬のときもシンちゃんと知り合いやったかも知れんな。」
話の内容がかなり幼いけれど、それもこの不思議な空間のなせる業といった所だろう。
「じゃあ、遊園地行くか。デートの行き先が決まったら、あとの時間はクンクンとペロペロさしてな。」
「ワンちゃんやからな。でもペロペロは遠慮してな。」
「唇以外はな。」
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