18人が本棚に入れています
本棚に追加
「キャー、イヤー。」
結果的に終始ミホの叫び声は鳴り止まなかった。
「えーん。」
すでにミホはべそを掻いている。
「ボクがついてたから大丈夫やったやろ?」
「うん。大丈夫やった。」
「あそこのベンチで少し休もか。」
進也は木陰の脇にあったベンチを見つけて、ミホをつれて歩き出す。
時計を見るとすでに十六時を回っていた。
「明日も仕事あるやろ?今日は早いうちに帰ろか?」
「そうやな。遅くなったらシンちゃんも狼になりそうやからな。」
「今まで、ちゃんと無事に帰してきたつもりやで。」
「そうやったな。」
そういってミホは進也の首に腕を回して唇に軽くキスをした。
一瞬のことだったので、あっけに取られる進也。
「ミホのこと楽しませてくれたごほうび。」
軽くとはいえ、プライベートでは初めての唇へのキスだった。以前にホッペへのチューはあったけど。
「じゃあ、今日も無事に帰してあげなあかんな。ご飯だけ食べてから帰ろか。」
二人は楽しかった遊園地を後にして大阪の繁華街への帰路についた。
大阪市内の夕暮れはまだもう少し先の時間帯。多少、空が暗くなっても明るいネオンが街行く人の頬を赤く染めている。
なんだかんだでそれぞれ大きな声を出した後だったので、少し疲れも残っていた。二人は大阪駅近くの小さな居酒屋の店に入り、カウンター席の奥を陣取る。進也はビールで、ミホはライムハイで軽く喉を潤す。
「今日は楽しんでいただけましたでしょうかお嬢さん。」
「楽しかったで。最後は怖かったけど。でもシンちゃんのビビってるのも見られたし、めっちゃよかったな。」
「ジェットコースターは今回で最後にしてな。ホンマにアカンねん。今日一日で十年分ぐらい乗った感じやし。」
すでに二人は何度かのデート重ねて、お互いの気持ちを意識し始めている。
進也の離婚は確実にミホの気持ちに衝撃を与えていた。もちろんプラス思考の材料ばかりではない。
それでもミホは進也の大らかさに惹かれている自分を感じていたし、進也も離婚成立以降、ミホに対する意識は変わり始めていた。但し、進也の場合は離婚がきっかけではない。増長したことに変わりはないが。
少し大きめのグラスを二人で二杯ずつお代わりしたところで、丁度つまみも空になり、二人のお腹は満たされていた。
「ちょっと気分が落ち着いたら、駅まで送るわ。軽く散歩しにいこか。」
最初のコメントを投稿しよう!