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進也の腕時計は二十時を指していた。
「そんなに早く帰らんでもええねんで。ミホも子供やないねんから。」
「せやな、そやけどこれ以上遅くなったらボクの本性が変わってまうかもしれんやんか。」
「シンちゃんやったら大丈夫や。過去三回の実績があるやん。せやからミホも安心して一緒におれるんやで。」
「ほんならもうちょっと酔いを醒ますのにコーヒーでも飲みにいこか。」
「ううん。一緒に歩いてるだけでええねん。」
「じゃあ、折角やから空中庭園に行こう。」
進也はミホの手を取って歩き始める。大阪駅近くにはビルの屋上にオープンスペースがあり、空中庭園と称してアベックたちの夜のデートスポットになっているところがあった。
エレベータを昇りきり、ドアが開いた瞬間に広がる都会の夜景。
「うわあ、すごいきれい。」
「ちょっと寒いけど、それはガマンしてな。」
「シンちゃんがあっためてくれたらええねん。」
それを聞いて進也はミホの後ろから腕を回す。
「こんな風にやろ?」
「うふふ。」
多少の年齢差はあれど、若く見える進也ならば、薄暗い空間の中での二人は恋人同士に見えたに違いない。
「なあシンちゃん。こうやってたら、まるで恋人同士みたいやな。」
「端から見たらそう見えるやろな。イヤか?」
「ううん。シンちゃんやったらイヤやないで。」
まだ酔いが醒めていないこともあるのか、ミホは幾分かテンションが高い。ふと進也の方に振り向いて、
「今日はアリガト。楽しかった。」
そう言って唇を合わせてきた。さっきと違ってゆっくりと。そして目を閉じて。
本当に恋に落ちてはいけない・・・。進也はそう自分に言い聞かせながらミホを抱きしめていたのだが・・・。
やがてゆっくりとミホの体を離して、
「ありがとう。今日一番のごほうびをもらった気分やな。これでゆっくり眠れるわ。」
「今日は特別な日やったで。またお店に来てな。そんな頻繁やなくてええから。無理はせんでええねんで。」
「会いたいって言うて欲しいねんけどな。」
その返事は聞かずに、今度は進也の方からミホの唇を求めていった。それを黙って受け入れるミホ。やはり目は閉じていた。周囲の目もあるので、あまり長い時間一つになっているわけにもいかなかった。進也はそっとミホの肩を抱いてささやく。
「さあ、ごほうびももらったし、駅まで送っていこ。」
「うん。」
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