◆プロローグ・・・

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◆プロローグ・・・

この物語の主人公であるシンちゃんこと鈴本進也と、その同僚のヒデちゃんこと長沢秀雄がいつものようにとある焼き鳥屋に足を踏み入れたのは、年度末がすぐそこに足音を忍ばせて迫っていた如月の夕暮れだった。 役所関係の仕事が多い彼らの仕事は、二月から三月にかけてが詰め込み仕事のピークになる。彼らは今日もそんな詰め込み仕事に明け暮れていた。ようは、年度末に当たる三月までに、必要な数字をこなし、必要な実績を挙げなければ、上の方から睨みを利かせているお偉い方々から叱られるといった仕事である。 ある仕事などは会議を開くだけ。こっちの仕事は消耗品を購入して、得意先へ配るだけ。さらに今現在手がけている仕事は、三月末に開催されるであろうイベントで配るためのチラシを印刷するだけといった仕事である。 そんな追っかけられるような仕事に嫌気が差したとき、彼らは焼き鳥パーティーに出かけるのだ。パーティーといっても多くのお客さんを招待するわけではない。単に二人して焼き鳥屋に行って、酒盛りをするだけなのだ。それが二人のレクレーションであり、鬱憤を晴らす唯一の共通行事だった。 今夜も彼らは鬱憤晴らしのために焼き鳥パーティに出かける。この日はいつもよりも少し遠いところの店を散策することになっていた。今は便利な世の中であり、どの辺りにどんなお店があるのか前もって検索できる。そう、インターネットである。彼ら二人は来年四十に手が届いく世代であり、インターネットもさほど疎遠ではない。仕事でもかなりの頻度で活用している。 そんな彼らが暖簾をくぐった焼き鳥屋はネットでの評判もよく、人気店で予約の取りにくい店であった。 ともあれ、さほどグルメでもない二人である。味の評価はそこそこにして、焼き鳥を片手にビールを胃袋へ流し込む。冬だというのに二人はいつもビールである。秀雄が極端なビール党なので、よほどでない限り進也もそれに倣うことにしている。きっと嫌いではないのだろう。 かなり頃合のいいタイミングで秀雄がこんな話を始めた。 「シンちゃん、ちょっと面白い店があるみたいなんやけど、行ってみる?」 互いに「シンちゃん」、「ヒデちゃん」と呼び合う仲であるが、会社においても誰もかしこまって彼らを苗字で呼ぶ人などいない。せいぜい仕事関係の初対面の人ぐらいか。
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