こたつ

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 ボロの綿入り半纏を雪花に着させると居間の火鉢のなかの炭に火をつけてやった。畳の端は擦れ、土間も漬け物臭いかもしれんが暖は取れる。雪のなかに比べれりゃぁ、この家は随分ましじゃろう。 「あたっとれ」 「ええん?」 「あぁ」  雪花は遠慮がちに座布団の前に座ると、火鉢に手を伸ばした。雪花は炭の熱に顔をほころばせると、始めて子供らしい顔を見せた。  その様子を眺めると、わしはかまどの前に立ち、畑で採れた白菜と山菜を混ぜ、温かいうどんを作ってやった。 「全部、食うてええぞ」  雪花は困ったようにわしを見上げた。 「食うてえぇ」  もう一度、言うと、雪花は首先だけを折って返事をした。 「ありとう……」  雪花の返事には可愛げがあった。だがその姿は利口な人間に育つようには見えんかった。 「遠慮すなよ」  一言残すとわしは隣の寝間に入った。雪花に見えんように押し入れに隠した猟銃を取り出すと、銃身を折り曲げ弾を込めた。娘は大昔に死んだ。女房も死に、独り身になってから十年も立つ。八十を過ぎて、今更、刑務所に行くことなんぞ怖くもない。もし雪花の親父、晴吾が乗り込んで来たら一撃で眉間のあいだを撃ち抜いちゃる。  わしは猟銃を構えるとその鼻先を睨んだ。じゃがその時、かすかな不安がよぎった。     
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