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晴吾の肩を叩くが起きる気配がなかった。わしはそれを確認すると、奥の押入れから大きめの掛け布団を取ってきた。それをこたつ板のしたに挟み込むと、晴吾の身体を全部、布団で覆ってやった。その姿はまるで布団の下に大きな蛆がおるようじゃった。
わしは家の戸を開けた。雪の落ちる軒先で雪花が凍えていた。
「入ってこい。今日は一緒に寝るぞ」
抱きしめた雪花の体は死人のように冷たかった。雪花は部屋にあがると、居間のこたつの掛け布団のしたで丸まった晴吾を見つけた。
雪花はわしの足に掴まると何か言いたげな顔を見せた。
「安心せぇ、寝とるだけじゃ」
わしは雪花の背を押すと寝間に入れ布団をしいてやった。毛布を二枚も使ぉた温い寝床じゃった。雪花はおとなしくそのなかへ入った。
「早よぉ寝ぇ」
わしは傍らの雪花に言った。雪花はなにも言わず天井を見つめていた。ずっと黙っていた雪花がふいに声をだした。
「……もしおっ父が死んだら、うち、おっ母に会えるん?」
「何を言うとるんじゃ」
「うち、昔おっ母に叩かれた。こたつのなかで寝ちゃおえん。死ぬぞって」
雪花は布団を捲ると体を起こした。
「うち、おっ父が死んだらどこへ行くん。おっ母はもう、うちとおうてくれんじゃろう。もしおうてくれるんじゃたら、もっと早うにおうてくれるもんなぁ?」
女のほうは親らしいこともしとるんか。連れて逃げちゃりゃぁ、こんなことにはならんのに……。憤るわしの横で、雪花は一人立ち上がった。
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