こたつ

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 翌日、居間のこたつ布団の下で晴吾は死んでいた。家に駆けつけた駐在員は、よくある豆炭の中毒事故としてこの事件を処理した。  わしは庭の前の道で、県警の車に乗せられた晴吾の遺体を見送った。雪花が冷たい手で、節くれだったわしの手を握っていた。 「……寒かろう。なかに入って火にあたれ」  わしは居間に入ると雪花を火鉢の前に座らせた。雪花は黙って燃える炭に小さな手をかざしていた。  わしは茶箪笥の引き出しを開けると、なかから知り合いの住所が書いてある帳面と便箋を取り出した。こたつの上で手紙を書き始めたわしに雪花が声を掛けてきた。 「誰に手紙を書いとん?」 「あぁ、お前のお母さんじゃ。まず一つ目の約束を守らんとな」  雪花は困った顔を見せたあと小さく笑った。 「ありがとう」 「あぁ」  ふみが届けば雪花の母親はこの村に戻って来るじゃろうか。せめてこの子のために返事ぐらい書いちゃって欲しい。わしはそう願いながら筆を進めた。
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