三番 ファースト 新入部員

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さて、閑話は休題。 日が明けて翌日、例によって放課後音楽準備室に集合した俺と西九条は、これまた例によって昨日の試合の『感想戦』を始めた。 ざっと振り返れば商店街野球団によるノーヒットノーラン未遂、勝ち方としてはスマートに過ぎ、負け方としては淡白に過ぎるという内容で、正直盛り上がりに欠ける試合であったというのが単純に観客としての感想であったが、 さても西九条の手にかかればそんな退屈な結論には落ち着かない。 「あれほど一方的な試合に落ち着いてしまったのには当然理由がある。 そして、そこまで全て計算づくで武庫川監督はリードしていた。 それをきっちり理解しない限り、大物スターズは何度やっても同じ事を繰り返すわ。 逆に言えば……そう、それを押さえておけば、 今度は勝てる可能性だってある。」 荒れ果てた大地に一輪の花を育てる女神が如く、彼女はそう仰られるのである。 こうなるとこの部活は無条件に楽しい。何一つ道具もなく、労働力にも資源にも乏しい土地から実の成るものを育て上げるシュミレーションゲームは、 その難易度の高さも相まって、クリアを目指す努力そのものに達成感を感じることさえできるのである。所詮自己満足だという考え方もできてしまうが、大体この部活それ自体がそういう目的の元に作られているので、 あまり気にしない。 「鳴尾浜商店街野球部は、端的に言えば逃げ切り型のチームよ。」 「逃げ切り型。」 「ええ。序盤に戦力を集中投入してリードを得て、そのまま試合を終えてしまう。 本来、中継ぎや抑えの投手が充実しているチームが使う作戦と言えるかしら。」 「つまり先に点取って、あとはピッチャー交代&守備固めでリード守りきって勝つと……… けど、昨日、商店街野球部は野田さんがきっちり最後まで投げきってるぞ?それに、点を取ったのも中盤戦だし、打線の組み方とか選手の起用法に特別な何かは感じなかったし………」
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