二番 セカンド 始動

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見透かしたような事を言う西九条。完全に見透かされた形になった俺は、彼女に抗うことを早くも諦め「そのこころは?」と問うた。 「1イニング毎に投手としてのタイプを変えているわ。例えば初回はストレート押しの剛球派、二回は打ってかわって大きく曲がるカーブ中心の軟投派。三回は………メジャーリーガーのリベルを意識したカットボーラーならではの配球ね。 大物スターズはたまったものではないわ。中継ぎ三人を相手にしているようなものだもの。」 「七変化のピッチャー、というわけだな。なるほど確かに、ここまで多く投げ分けのできるピッチャーはそうそうプロでもお目にかかれるまい。」 相槌を打ったのは俺ではなく付き添いの香櫨園だった。白衣を夜風に靡かせて、腕を組みグラウンドを輝かんばかりの瞳で見つめている。 単純な表現だが、非常に楽しそうだ。 「しかし西九条よ。そうなってくると、凄いのはピッチャーだけではなくなってくるのではないか? 投げ分ける方も大変だが、それだけパターンを変えて配球を組むキャッチャーにも、相当負担がかかるとみたが。」 「確かに………俺も一回やったことがあるが、正直素人ではどう組み立ててもワンパターンになってしまうもので……」 「香櫨園先生、シラフだと鋭いですね。 私もそう思います。ピッチャーの技術はいうに及ばずですが、この配球の組めるキャッチャーは、相当優秀です。」 そう言う西九条の表情は、相も変わらずクール一徹、限りなく透明に近かったが、 しかしその声は若干上ずっていた。これは、彼女が興奮しているか、かなり楽しく感じているときのサインである。
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