二番 セカンド 始動

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「初回から全てが計算づくです。恐らく……二回に変化球主体のスタイルを持ってきたのは、クリーンアップを効率的におさえるためでしょう。 たぶん、キャッチャーにもピッチャーにも、上位打線を抑えるだけの自信はあった。問題視していたのは四番だけ……実際、二打席目はファールとはいえ大飛球を一つ打っています。 最初の三人に、ストレート主体の勝負を仕掛け、見せておけば……当然、四番の頭はストレート責めになることでしょう。このピッチャーには自信があるんだろうなと、そう感じるはずです。」 「ははぁ、その裏をかいた訳だ。 それで全ては対四番の布石だったと言いたいわけかね?」 「ええ、少なくとも私はそう思います。四番に対する配球は、初級インハイギリギリカットボール、二球目膝元もう一球カットボール、三球目外角はずし目のストレート挟んで、最後は緩いドロップ系のカーブ。配球自体は大体セオリー通りですが、しかし相手の頭にストレート主体のイメージがあるゆえ効果のほどが全く違う、というわけです。」 ………あり得ないのは承知で、このレベルの解説をかます女子高生が世の中に溢れるようになったら野球解説者はことごとく失職してしまうことだろう。 わかっていたことだが、西九条の野球に対する情熱は桁が違う。言い方悪いがたかだか草野球の試合を、これほど深く、詳細に分析しようと試みることなど、もはやそれ自体がある種異常だ。 もはや、プレイヤー以上に真剣なのかもしれない。彼女にとって、野球観戦とは、それだけでもはやひとつのスポーツ足り得るのではないかと思うほどだ。
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