二番 セカンド 始動

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「思います。カットを習得できなくて苦労してる人、知ってますから。」 オヤジの事である。若いころ、どうしても投げたくて血の滲むほど練習したが、ついぞ実用段階のものにはならなかったという。 モノがスライダーと直球の中間的な玉なだけに、ある程度変化量がなければ回転の変な、ちょっと遅くて甘いストレートになりかねないのである。 「その言い方やったらまるでプロに知り合いがおるみたいやな、ハハハ! まぁええやろ、俺もおんなしように思っとる。あいつのカットは社会人離れしとるさかいな、もうほんの五キロストレートが早きゃプロの目もあったんやろうが………」 「…………。」 俺は何も言えなかった。現代野球において、プロとして生き残れるストレートの早さのボーダーラインは著しく上昇している。あのピッチャーが何歳かは知らないが……成長見込みのない135キロでは、生き残っていくのは厳しいだろう。 オヤジの場合は、150でも苦しい時期があった。 「さっきのピッチャーはな、出屋敷。武庫川さんの教え子なのだよ。」 まるで自分が育ててきたかのように誇らしげにそう言うのは香櫨園。さいで、と俺は思う。武庫川の話し口がやたら親しげだったのが気になっていたのだ。 ふと、俺はほったらかしの形になってしまった隣の西九条を横目で見た。
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