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「プロレベルじゃないわ。あれはプロよ。来年阪神がとるといいわ。あんなのを草野球で野放しにしていたら、競技人口を減らすだけよ」
「わかった、凄いのはわかったから落ち着け西九条。それにまともに立ち向かっていったお前のクソ度胸と野球に対する飽くなき探求心に、俺は感心しているよ。」
「あなたの感心なんて求めていない……とにかく、打てっこないわ、あんなの。
絶対、右打席に立ちなさいよ。いい?でないと3Dのアバターを最前列で見るよりはるかに恐ろしい目に逢うわ。
私、こう見えても部員を大切にしたいと考えているの。話し相手が消えるのは惜しいのよ。だから、無事に帰ってこれるように努力しなさい。いい?バッターボックスの一番外側に立つのよ」
「いや……そこまでしなくたって大丈夫だって。あの人コントロール良さそうだし。第一お前も当たってないじゃんか」
「いいわ。ここまで言って聞かないならもう死んできなさい。あの世で後悔するのがいいわ。さぁ。」
とん、と背中を押してバッターボックスへ促してくる西九条。あんまりにもなげやりな送り出し方だなぁ、などと思いつつ、俺は左打席に入る。
向こうの方で西九条が片手で顔を覆うのが見えた。見てられない、とでもいうかのように。
仕方ないじゃないか、左利きなのだから。
足場を慣らしながら俺は思う。
そりゃあ、俺だって、あんな球が簡単に打てると思うほど楽観的じゃない。超プロ級だと西九条が表現するほどの球を、軽々ヒットにできるほど体もない。まだ高校生になって幾ばくも経っていないゆえに。
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