二番 セカンド 始動

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「だってあの人がそういうサイン出すんだもん」 「香櫨園先生、後でコンビニにビール買いに行きましょうね。鳴尾浜の海釣り公園で一緒に飲みましょう。」 「そんなこども名探偵も見破れないような完全犯罪の予告はやめたまえ。何、ちょっとの遊び心さ、許せる広い心を持つべきだとは思わんかね?」 「遊びで死にかけた身になってください。ならないとわからないならチューハイ持って海釣り公園へ」 「二球目いきまーす!」 待ちくたびれたらしい野田がワインドアップに入る。俺はあわててテイクバックを作った。 が、今度はカットボールを投げてくるという確証はない。どのみち中学生の俺にとってはどんな球でも速球には感じられるから、バットを持つ長さは変わらないが………イメージは変わってくる。 もしインコースのストレートなら……踏み込みは自殺行為だし、135キロの速球相手に流し打ちというのは、おそらく手首が死ぬ。 ここは狙いを絞るしかないのだが……さて、どっちに絞るべきなのか。 俺は、じっとピッチャー野田の顔を見つめ続けた。ヒントがほしかった。具体的には……まだ、サインは香櫨園が出しているのか、そうではないのか。 その答えは、案外すぐに出た。野田は露骨に右を伺ったのだ。それは、野田からのサービスだったのかもしれない。要するに、配球を決めているのはどういうわけか香櫨園だということだ。 であれば。ひとつ仮定できることがある。 香櫨園は今日、西九条から裏をかく投球術の有効性をしこたま説かれている。そしてそれは、例によって納得感心しきりの内容だった。俺も含め。 人間、その日学んだことは実践したくなるのが人情というもの。 この勝負は三球。裏をかく投球を実践しようとするなら、既に初球はその布石になっていなければおかしい。 単純だが、今日の試合の一回、二回、三回を一球目二球目三球目に当てはめれば。 初回はストレート責め、二回は変化球主体、三回はカットボーラー。 もし香櫨園がこの通りの配球をするとすれば、この二球目はーーー
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