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「……外角のカーブじゃないの!?」
お見事。
外角一杯、ドロップ気味のカーブ。
俺はわざと空振った。ストレートのタイミングではるか上を振った。
香櫨園がさらに笑い転げる。俺は、ほくそ笑みたいのを必死に堪えて香櫨園にこう叫ぶ。
「今から海釣り公園へ行きますか!?」
香櫨園は笑い転げるばかりで何も言い返してはこなかった。俺はその瞬間次の球を確信した。
香櫨園は悦に入っている。投球術がモロにはまって、楽しくて仕方ないはずだ。
であれば、絶対。
次こそ、あれが来る。
野田が、両腕を大きく振り上げる。
俺は、あえてさっきよりバットを長く持った。
そして、テイクバックも大きめに取る。
野田体が右に反転し、体が沈み、足が前へ出て。
しなった腕からボールが繰り出される瞬間、
俺は前の足、すなわち右足を外へスライドさせてステップを踏んだ。
そして、早めに振り出す。バットを前へ送り出す。内角ギリギリに、芯が来るように。
野田のボールは、直線軌道で真ん中やや内よりへ。しかし、徐々に曲がる。スライドする。
俺は、香櫨園に負けないくらい心のなかで高笑いをした。
ーーーカットボールだ。
予想通り。この球を、俺は、待っていたーーー
「ていっ!」
カーン、と金属バットの乾いた音が響いて、真っ芯を喰ったボールが直線軌道を描いてライト方向へ飛んでいく。
さして飛距離は出なかったが、それが却ってよかった。ボールはライトの手前でバウンドし、転がっていく。
クリーンヒット、というやつだった。
野田が「やられた!」と悔しそうに、だが楽しそうに声をあげる。
俺は歓喜に叫び出したくなるのを堪えてマウンドに一礼し、それから自分があるいてきた方角を見た。
顎が落ちたように唖然とした表情を見せるのは香櫨園。ありえない、何で、嘘だろと言わんばかりの驚愕が表れている。
そしてそれは、その隣の武庫川も同じだった。当然だろう。自身がプロ並みと認めたカットボールを、高校一年生の素人と思っていた相手が打ったのだから。
それだけで俺は十分嬉しかった。だが、何より意外で、かつ最高に嬉しかったのは………
「………あなた、何者?」
出迎えてくれた西九条が、眉を潜めて……
オヤジや野田のカットボールをみたのと同じような、
輝く瞳で俺を見ていたことだった。
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