二番 セカンド 始動

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「……外角のカーブじゃないの!?」 お見事。 外角一杯、ドロップ気味のカーブ。 俺はわざと空振った。ストレートのタイミングではるか上を振った。 香櫨園がさらに笑い転げる。俺は、ほくそ笑みたいのを必死に堪えて香櫨園にこう叫ぶ。 「今から海釣り公園へ行きますか!?」 香櫨園は笑い転げるばかりで何も言い返してはこなかった。俺はその瞬間次の球を確信した。 香櫨園は悦に入っている。投球術がモロにはまって、楽しくて仕方ないはずだ。 であれば、絶対。 次こそ、あれが来る。 野田が、両腕を大きく振り上げる。 俺は、あえてさっきよりバットを長く持った。 そして、テイクバックも大きめに取る。 野田体が右に反転し、体が沈み、足が前へ出て。 しなった腕からボールが繰り出される瞬間、 俺は前の足、すなわち右足を外へスライドさせてステップを踏んだ。 そして、早めに振り出す。バットを前へ送り出す。内角ギリギリに、芯が来るように。 野田のボールは、直線軌道で真ん中やや内よりへ。しかし、徐々に曲がる。スライドする。 俺は、香櫨園に負けないくらい心のなかで高笑いをした。 ーーーカットボールだ。 予想通り。この球を、俺は、待っていたーーー 「ていっ!」 カーン、と金属バットの乾いた音が響いて、真っ芯を喰ったボールが直線軌道を描いてライト方向へ飛んでいく。 さして飛距離は出なかったが、それが却ってよかった。ボールはライトの手前でバウンドし、転がっていく。 クリーンヒット、というやつだった。 野田が「やられた!」と悔しそうに、だが楽しそうに声をあげる。 俺は歓喜に叫び出したくなるのを堪えてマウンドに一礼し、それから自分があるいてきた方角を見た。 顎が落ちたように唖然とした表情を見せるのは香櫨園。ありえない、何で、嘘だろと言わんばかりの驚愕が表れている。 そしてそれは、その隣の武庫川も同じだった。当然だろう。自身がプロ並みと認めたカットボールを、高校一年生の素人と思っていた相手が打ったのだから。 それだけで俺は十分嬉しかった。だが、何より意外で、かつ最高に嬉しかったのは……… 「………あなた、何者?」 出迎えてくれた西九条が、眉を潜めて…… オヤジや野田のカットボールをみたのと同じような、 輝く瞳で俺を見ていたことだった。
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