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「ブルペンを見ていないからなんとも言えないけれど、武庫川監督は出来ることならリリーフを使いたくはなかったと私は考えているわ。最初から野田さん一人で行くつもりだったと思う。
商店街野球団に選手の数は多くなかったし、少なくとも野田さんより立派な体格をした選手はいなかった。安直だけど、あの人より優秀なピッチャーはいなかったんだと思う。」
「ええ………」
「あなたのその口癖、数を聞いているとあまり心地のいいものではないわ。できれば控えてほしいのだけれど」
「善処する。
それで……」
「あなたの言いたいことはわかるわ。
最初に言った逃げ切り型の条件と、チーム状況がかけ離れている。
そういったところじゃないかしら。」
「……こういう趣味してると二手三手先を読むのに長けてきたりするのか?」
「どういうこと?」
「お前、俺がこういう質問する方向に話持っていっただろう。いやなに、感心するばかりで別に嫌な気はしないけど、掌で遊ばれているような感じがする。」
「あなたがそういう感覚を持つことを期待してこういう話し方をしていたわ。
昨日の大物スターズも同じようなものなの。武庫川監督の掌で遊ばれていた。」
「…………詳しく頼むわ。もうお手上げだ」
「優秀なリリーフはいないけれど、プロ並の明らかに実力の飛び抜けた先発ピッチャーがいるチームが逃げ切り型の戦法を取る方法。
それは、
序盤にその実力差を派手なまでに見せつけ、完膚なきまでに相手のプライドを打ちのめしておくことよ。」
「…………?」
「あなた今、掌で遊ばれているみたい、って言ったわね。
どう?その精神状態で、私を口で打ち負かそうと思ったりする?」
「いや。欠片も思わん。」
「私の見解に勝るものを、持ち出せると思う?」
「無理だな。俺とお前じゃ……知識も推察に回せる頭の回転速度も、観戦側の経験も……何もかもが違いすぎる。
とても太刀打ちできるとは思えない。こればっかりは見栄張っても仕方ない。」
「あなたと私、まだ出会って一週間と四日しか経っていないのだけれど。それでもそう思う?根拠はあるのかしら?」
「………?
根拠もクソも、今話している通りというか………
初日に感想戦やった時から、勝てっこないって思ってるよ。まぁ、勝つ必要もないけど………」
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