ツイてるこたつ

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 ◇  俺が新居のアパートへ到着したのは、その日の夕方だった。  荷物の運び込みが終わって引っ越し屋を見送ると、俺はふうと溜め息を吐いた。  狭い部屋の中はダンボールで埋め尽くされている。  ひとり分の荷物とは言え、これを今から片付けると思うとうんざりだ。 「まずはあれだな。飯を食う所と寝床の確保」  ダンボールを押しのけ仮スペースを確保し、そこだけ簡単に掃除機をかけた。  人気(ひとけ)のなかったアパートの一室は、未だ寒々としている。  荷物の中からこたつ布団を取り出すと、早速あいつの登場だ。 「おお! 暫く見なかったから、なっつかしー」  今は我が家でも、母さんしか使っていないこのこたつ。  俺が高校へ上がる頃だったか、もう小さいからと買い換えた。  だが、買い換えた理由はそれだけではなかった気もするが…… 「なんだっけ、忘れたなぁ」  そんなぼやきを入れながら、こたつに掛け布団をセッティングする。  何となくわくわくとしながら早速スイッチを入れた。  じんわりと温かくなり出したこたつの中へ、俺はするりと両足を滑り込ませる。 「うー、あったかい! 生き返るー!」  そんなささやかな幸せに浸っていた、その時だった。
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