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雪が空から舞い落ちる。淡くて儚い東京の雪。
だけど今夜は少しだけ、光希の住む場所に近づいた気がする。
また着信が入った。私は思わず通話を押す。
「はい」
電話の向こうから聞こえてくるのは懐かしい声。
「見てるなら電話出ろよ。俺にばっか恥ずかしいこと言わせやがって」
光希の声が、すぐそばから聞こえる気がする。
「聞いてんの? 俺の話」
「……聞いてるよ」
耳元がふんわり暖かくなって、私は口元をゆるませる。
「ごめんね。返事しないで」
少しの間黙った光希が、私に言う。
「俺もごめん。年末も仕事が入った」
私は小さく息を吐き、電話につぶやく。
「じゃあ私がそっちに行こうかな」
「え?」
「忙しいのに、迷惑かな」
「まさか! 全然迷惑なんかじゃない!」
光希の少しうわずった声を聞いていたら、胸の奥につかえていたものがすうっと溶けていった。
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