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「俺、時間止めれんねん。すごない?」
────この男は何言うてるんや。
海パンに学年カラーの緑の帽子に黒のゴーグル。
プールサイドに体育座りのクラスメイトから発せられる言葉にしてはパンチが強すぎる。
夏休み初日なのに、すでに夏の暑さにやられたのだろうか。
とりあえず、リアクションはしないといけないだろう。かと言って過剰に反応すれば調子に乗るかもしれない。
だから私は「え?うそぉ?」と笑ってふざけてみた。
ベストオブ他愛もない話に対する返答ではないだろうか。
────古崎くんはちょっと変わっている。
クラスメイトになって3ヶ月。
私の前に座るこの海パン男古崎くんこと古崎蒼真くんはクラスでは有名な変人だ。
行動、発言ともに謎で、授業中に急に立ち上がって一発ギャグをしたこともあるし、聞いたところによるとそのあと呼び出された校長室でも同じギャグをやったらしい。
鋼のメンタルといえばそれまでの話だけれど。
あと、何方かと言えば女子とはあまり話すイメージがない。
だからまさか話しかけられると思っていなかった時のこの一言は余計にパンチが強かったのだ。
「まじまじ。息止めてるあいだだけやけどな」
「短かいな」
こんなことになるなら水泳の授業サボるんじゃなかった。
補講にさえこなくて済んでいたら古崎くんに絡まれることなかったのに…
『順番にプールに入れー。25mタイム測り終わったやつから解散や』
先生の声がプールサイドに響く。
「じゃあ、証明してよ」
「時間止められるってことを?」
「うん」
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