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コンコンとノック音が響いてから間をあけずにどうぞと返事が返ってくる。失礼しますと礼をしてから会議室へ入ると、わざとらしくブラインドから外を覗くしぐさからのカシャンと音を立てて元に戻ったブラインドが左右に揺れている。
「何度目だと思う、南が馬場に仕事のことで頼み事をするのは」
「正直、数は数えていないので分かりませんが、1ヶ月で10回ほどでしょうか?」
そばにあった会議室の机の上がドンと叩かれて思わず肩が上下する。
「週に約13回。月にすると約52回だ。つまり、それだけ南の仕事を奪ってることになる」
数を数えていた主任に強い執着を逆に感じつつも、しおらしく「はい」と返す。
「手を貸すことがダメと言っているわけではない。ただあまりにも手を貸しすぎだと言っているんだ」
しおらしくした私に主任は言いすぎたと思ったのか先程よりはいくらかやわらかな声色でフォローの言葉を口にした。
「ここだけの話。馬場を営業アシスタントのままにしているのは会社にとっても不利益ではないかと議題に毎回あがっているんだ」
「それはつまり私が必要ないということでしょうか?」
違うとすぐに否定の言葉のあとすぐに主任はまるで昔話を聞かせるかのように語り出した。
「同期の玉岡君がいるだろ。彼が君を手放さないんだ。何を言われても的確にかつ、そうだなと言わされるように周りを納得させてしまうんだ」
コンコンというよりドンドンと荒く会議室のドアが叩かれた。何故かひどく焦っているようなそんなイメージができた。
「主任。そろそろばーや返してもらっていいですか?あいつじゃ使いものになりません」
あいつと呼ばれたのは誰かは予測はつかないけれど先程の約束を守ってくれた玉岡君は主任が返事をする前にドアを開けて、いつもより余裕がなさそうにみえた。それは偽りかもしれないが、主任を納得させるには十分な表情だ。主任はフッと息を吐くように鼻で笑ってジェスチャーで行けという。
「いいか、ばーや。ここだけの話だぞ」
の声は小声で話すよりもより小さく息を吐くように紡がれたコトバは私にしか届いていない。
会議室を出てデスクに戻り腰を落ち着けた所で玉岡君は間に合ったかと聞くものだから、えぇ助かったわといつものように返事をして仕事にとりかかった。
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