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今日は終業間際の電話がなかったのにも関わらず事務処理がうまく片付かず少しだけ遅くなってしまった。他のメンバーはほとんど切り上げて帰宅しておりフロアは静寂に包まれている。窓に目をやるとふわふわと雪が舞っているのがみえた。
なるほど、雪がふっているならいつも残ってるメンバーがいないのも頷ける。最後の1人だった私は灯りを消し荷物をまとめて入口へと足を進めた。
オートロックになっているため施錠の確認は音だけで終了する。ガチャリと大きな音が廊下に響きわたりその後に聞こえたのは私のローヒールの音だけ。
外に出ると辺りはもう暗くなっていて凍った雪の上に新しい雪が積りはじめていた。
「ばーや、遅い!いつも通りに終わると思って待ってたのに全然降りてこないから凍傷を起こすところだったんだからな」
突然聞こえてきた玉岡君の声に辺りを見渡すと向かいの軒下で寒そうに手をこすり合わせてる玉岡君がいた。私はカバンから折りたたみ傘を出すのも忘れ、下が滑りやすい雪だということも忘れ、いつもの歩幅で歩き出した。
「え、なんで玉岡君今日は夕方から外で直帰だって言ってたじゃないの?」
雪が降ってたからと呟かれた言葉は雪の踏む音で消されてしまったと同時に片方の足がスケートみたいになりバランスを崩した。無言で私を受け止めてくれた玉岡君の手は氷のように冷たくて、随分前からここにいたことを証明してた。
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